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2017.09.28

大人の女性はかしこく食べなさい(後編)「不調を和らげる工夫を」

食とカラダのプロフェッショナル 植木もも子先生に聞く

健やか料理研究家・管理栄養士・国際中医師・国際中医薬膳管理師・遼寧中医学院・日本校薬膳講師・ウェルエイジ料理教室主宰

 

いつまでも若々しくきれいでありたい。心身ともに健やかでありたい。女性ならだれでも願っていることではないでしょうか。そのために大切なのは、「食」であることは言うまでもありません。毎月、RED FROGS JOURNALでその季節に合った「女子力上げる女性に優しい季節のスープ」レシピをいただいている植木もも子先生に、薬膳料理研究家および中医師の立場から、大人の女性が「食」において気をつけるべきことを伺いました。

 

女性ホルモンの働きと女性の心と体

後編では、女性の健康を左右するといっても過言ではない「女性ホルモン」についてお話しましょう。

ホルモンとは、体内で分泌される化学物質で、脳が指令を出して血中に分泌され、全身を巡って体の状態を調節しています。女性ホルモンは、とくに妊娠・出産にかかわる大切な働きを担っていますが、女性らしい体をつくる、お肌の張りを保つ、骨密度を保つ、精神状態を安定させるなど、女性の心身の状態に深く関わっています。生活習慣病を予防し心臓や血管の病気にかかりにくくするといった働きにも関与しています。さらに、女性ホルモンだけでなく男性ホルモンも含めた性ホルモンと脳機能との関係についても注目されています。性ホルモンは、記憶を司る脳の海馬でも作られているというのです。たくさん作られていると認知機能が高く、減少すると低くなることが動物実験で明らかになっています。

このようなかけがえのない働きをしてくれている女性ホルモンですが、年齢とともに減っていき、とくに分泌量が急激に減少する40代後半から閉経をはさんだ50代前半までの10年間は、自律神経が乱れ、体や心にさまざまな影響が現れやすくなります。更年期症状といわれる体の冷えやむくみ、急な発汗やめまい、粘膜や皮膚の乾燥、集中力の低下、不眠、情緒不安定など、不調に悩む人も少なくありません。肥満や高血圧などの生活習慣病にもかかりやすくなります。

女性ホルモンの低下は避けて通ることはできませんが、生活習慣の見直しで女性ホルモンの低下による不調をやわらげることは可能です。それには、中医学の考え方がとても参考になります。

 

不調を和らげる食事の工夫

中医学では、更年期には、血液の貯蔵と供給を担う「肝」と、生殖機能を司る「腎」を補うことが非常に大切だと考えます。漢方では亀やすっぽん、鹿茸(鹿の角)などがよく使われています。身近なところでは、ゴズベリー(クコの実)はまさに肝と腎を補って老化を遅らせる食材。目や肌の老化予防にもよいとされ、毎日少しずつでも食べたいものです。

大豆食品には、女性ホルモンのような働きをする大豆イソフラボンが含まれています。日本人は昔から納豆や豆腐、みそなど大豆製品をとってきていますが、女性はもっと積極的に摂ったほうがよいでしょう。最近の研究報告で、腸内細菌の働きで、大豆イソフラボンから、女性ホルモンに似た働きをする成分がつくられることもわかってきました。ただ、大豆製品は、時々大量に食べて補うのではなく、日々の食事のなかで少しずつ継続して食べることが大切です。

また、閉経後に起こりやすい骨粗鬆症を予防するために、早いうちからカルシウムを積極的に摂っておくといいですね。ちりめんじゃこや桜えび、ごまなどをからいりして作るふりかけは、手軽なカルシウム源です。毎食大さじ1~2杯、ごはんにかけて食べれば、骨の健康維持に役立つでしょう。

 

夜はしっかり眠りましょう

肝と腎を補うために必要なのは食べ物だけではありません。夜しっかり眠って質のよい睡眠をとることがとても大切です。

最近の日本人は年々就寝時間が遅くなっていますが、女性はとくに早く寝なければなりません。肝と腎は、夜眠っている間に養われるので、遅くとも12時には寝るようにしたいものです。

更年期のことを、中医学では「陰虚」といいます。「陰」(血液や体液など体に必要なうるおい)が虚している(機能が低下している)状態という意味です。ですから、更年期の症状を緩和するには、陰を補うことが必要です。陰は、肝と腎がつくってくれるので、その時間に寝ていないと「陰」が養われないのです。

女性が陰虚になりやすいのは、「血」は「陰」に属していて毎月生理で経血が出るため、血を補わないままだと不足してしまうからです。とくに出産を経験した女性の多くは、出産時に大量の血液を失い、陰虚になります。血を補うために、中国では「産後の1カ月はお姫様」といわれるほど大事にされます。韓国でも手厚いケアをします。産後のすごし方によってその後の老化の進み具合が違ってくることを知っているからです。日本でも、くれぐれも疲れやストレスをため込まないように、産後のケアをきちんとしてほしいですね。

さて、女性は60代までは陰虚の状態が続きますが、70代後半〜80代になると、「陽」(体を温める力)も虚してきます。そうすると体を冷やさないようにすること、陽を補うことが重要になってきます。

 

体の巡りをよくするために

「冷え」はとくに女性の大敵です。冷えると体の巡りが悪くなります。血液循環がうまくいかなくなることが、生理痛を招いたり、婦人病につながったりします。

私は若いころ生理痛がひどかったのですが、どうして生理痛が起こるか、わかりませんでしたので痛み止め飲むだけでした。

ところが、中医学の勉強をしたら、原因がわかったのです。それは、冷えによって血流がうまくまわっていなかったということでした。

冷えを招くのは、体を冷やす食べ物や薄着だけではありません。

ストレスを感じやすい人も血流が滞りがちです。ストレスは単に心の問題ではなく、体にも大きな影響を及ぼします。血を巡らせるのは「気」なので、滞った気を回すことも大切です。血流をよくするにはねぎ類、気を回すには柑橘系がよいといわれています。薬味野菜や香りのいいものを食べるといいですね。

気を回し、血流をよくするには、運動も効果的です。私自身、30代の頃にいろいろなことが重なって精神的に参っていた時期がありました。そんな私を心配した友人が体操教室に強引に引っ張っていってくれました。驚いたことに、行き始めてまもなく、霧が晴れるようにすべての不調が解決していきました。体が動いていない状態を、中医学では気が滞っている状態、「気滞(きたい)」といいます。気滞になると、精神的に落ち込みやすく、血流も悪くなります。体操をしたことで、気が回るようになり、気滞が改善したのです。生理痛も腰痛もいつの間にか消え、精神的にもすっかり元気になりました。

 

もっともっと自分の体を大切に

薬膳の世界は、とてもおもしろいと感じます。自分の体の状態に合った養生の仕方がわかってくれば、不調の改善や病気の予防に役立てることができます。

日本では明治維新以降に西洋医学が主流となり、中医学を捨ててしまいましたが、もったいないことだと思います。西洋人とアジア人は気候風土も違うし、食べてきたものも異なります。体質も自ずと違うのです。自分の体の状態を正しく理解しないまま、流行や誤った情報をうのみにし、見えないダメージを体に蓄積してはいないでしょうか。

今、とくに気になるのは、無理なダイエット、冷えを招く食べ物の摂りすぎ、露出の多いファッションなど、体を冷やす生活スタイル。女子高校生のミニスカート姿を見ると、冷えが気になってハラハラしてしまいます。また、忙しさで食事がきちんととれない人が多いのも気になります。若いときは平気でも、年齢とともに何かしら体の不調として現れてくるでしょう。

現代社会は、まだまだ男社会。女性の職場進出が進んだとはいえ、男性の何倍も働かないと認められないうえに、家事負担は相変わらず女性に集中しています。精神的にも肉体的にも負荷が大きいのに、社会全体として女性の体への理解と配慮が足りません。

だからこそ、女性は正しい知識を身につけ、かけがえのない体と心を自分自身で守ってほしいと思うのです。ストレスを上手に発散し、適度な運動で体を動かし、体を冷やさないようにしてください。食事について気をつけたいことは前編でお話しましたが、上手に手抜きをしながら薬膳の知恵を取り入れ、毎日を楽しく健やかにすごしていただきたいと願っています。

「大人の女性はかしこく食べなさい。(前編)」はこちら

「植木もも子先生の女性のバランスを整える優しい薬膳レシピ」はこちら

 

植木もも子先生プロフィール

東京家政学院大学卒業後、岸朝子氏に師事し、料理記者として活動。
その後和食料理研究家の鈴木登紀子氏のアシスタントを経て、フードスタイリストとして雑誌の連載、CMなどを手掛けるほか、大学の非常勤講師としても活躍。
現在、管理栄養士、国際中医師、国際中医薬膳管理師の資格を持ち、培った知識と持論を生かした数々の著作本を出版している。また最近は講演や料理教室、テレビ番組の出演などを通して、毎日の食事の大切さを伝えながら「美味しく、楽しく、賢く、健康に」をモットーに健やか料理研究家として活動中。ファイトケミカル(植物由来の化学物質)パワーを取り入れた中医営養学、雑穀料理を中心に日々の料理を提案している。